AIとの競争に勝つために、子どもの教育に必要なこととは?
教育とは、子どもの幸せのために行うものと考えています。それも今現在ではなくて将来のためですね。それだから、子どもに将来はどんな人間になってほしいのかと考えます。将来のことですから、教育は世の中の変化とは無縁ではありません。
「世の中の変化がどんどん早くなる」といわれてきたのは、今から30年ほど前のことです。学校が「これからは英語の時代だ」とLL教室(ランゲージラボ)や、「情報化時代になるのでコンピューターを使いこなさなくては」とコンピュータールームを競って充実させました。
それを学校の売りにしたのです。でも、英語に不自由しない日本人をどれだけ作ったでしょうか。コンピュータールームも同様に教育に役に立ったでしょうか。それらは、どうやら無駄な投資だったように感じます。
それは、時代の変化を見誤ったのではなく、子どもたちのことをに考えないで、右に倣えと人まねの対応しかしなかったからだと思います。つまり、理念がなかったのです。
以下の記述は、山口学園長の考えですが、もちろん私も同感する内容です。
「夏休みに何をやりたいの?」と聞いたところ、顔を見合わせるだけで自分で何をやりたいとはっきり言えない子どもたち。これが現実でした。ならば、楽しいことを教えてやればやりたいことができて、言えるようになると考えました。
そして、アウトドアを中心に楽しいことをたくさん実践し続けて、活動の場をアメリカまで広げました。今度は、そこで英語でのコミュニケーションがほとんどとれない子どもたちを目の当たりにしたのです。近い将来、国際化していく日本人には英語が絶対に必要だと考えました。この時、まさに英語教育を始めたきっかけとなったのです。
英語で楽しい活動をたくさん行うために、外国人の先生に指導をしてもらいました。すると英語のコミュニケーション能力だけでなく、ある素晴らしいことを発見したのです。
外国人の先生は「ひとり一人が違って当たり前、それぞれにいいところがあるのよ!」という考えで子どもたちに接します。人と違った意見が貴重だという指導もします。そうすることで、子どもの個性が輝きはじめて、自己肯定感をしっかりと持った子どもが増えたのです。これがLCAの教育の原点です。
そして現在は、対人関係をよくするコミュニケーション能力も子どもたちの指導に取り入れています。お互いのことを十分に理解しあえるコミュニケーション、それを子どもたちにできるようになって欲しいのです。
それにはまず、自分の気持ちを伝える、そして相手の気持ちを受けとめられる、ということが重要になります。良好なコミュニケーションにより人と人がつながる、素敵な人間関係が望ましいでしょう。
そして、コミュニケーションの次は何だと思いますか。学園長は「感性の時代がくる」と言います。これは私も感じており、以前、他校の校長をやっていた時から注力していたことなので「我が意を得たり」でした。
知性や理性が大切なことは変わりがありませんが、これからの子ども将来のことを思うと、感性の重要性は想像以上に増すと思われます。以下は、私の考察と受けた衝撃の話です。
AI(人工頭脳)の進歩で、私たちはさらに豊かになっていくでしょう。その時に一人ひとりの人間としての価値はどこにおかれるでしょうか。何々について知っている、何々ができるという専門的知識や技術はAIにとって代わられるのです。とすると…。
優しさとか思いやり、さらに人を感動させる芸術性などが人間の生きる価値になってくると想像できます。だから感性を豊かに、輝く感性を持った人間に成長して欲しいと考えるわけです。
そんな折に、衝撃的な本にめぐり合いました。オランダ人で29才の青年ルトガー・ブレグマンが書いた『隷属なき道』という作品で、現在の子どもたちが成人になって、社会で活躍をする将来について記述されています。その時、真剣に「仕事とは何か」「人間とは何か」「しあわせとは何か」と考えなくてはならなくなるのです。
ブレグマンによると、未来の世界は、食べるためにとか、良い暮らしをしたいがための仕事は意味がなくなるそうです。仕事をする時間はわずかで、余暇こそ中心の生活になるといいます。ほんとうの「人間らしい」生活が叶えられるようになるのです。そのときのために、教育はどうあるべきでしょうか。
私たちは、今から子どもたちの未来ために、どのような教育を行うべきか、真剣に考えなくてはなりません。そのときにLCAの教育理念のキーワード「個性」「自分の気持ち、相手の気持ち」「コミュニケーション」「生きる喜び」が大きな意味を持つことになるでしょう。
遊び心がなければ、ほんとうにつまらない時代、まさに「感性の時代」がくるのです。
【西村校長】
▶ルトガー・ブレグマンが書いた『隷属なき道』については<こちら>