言いたいけど言えない
夏休み前のある日、小学校1年生の授業を見学しているとこんな会話があった。
先生(以後T) : What kind of rules do you have ?
勢いよく手を挙げて、
Sくん:I like reading books.
ここからのやり取りは日本語に訳して書いてみよう。
T:それってルールなの?
S:本を読むのが好き。ライブラリーに行く。
T:そうだね、本がたくさんあるからね!
S:そう、ライブラリーでは本は3冊。
T:3冊読むの?
S:ううん…5冊。
T:5冊読むの?
S:ちがう…家は3冊。
Sくんは、この春LCA国際小に入学した男の子だ。この小学校に来て初めて学校生活を英語で過ごしている。先生の英語を聞きとることはなんとかできるが、自分の意見を英語で表現することはまだまだ不自由だ。
それでも、最初の会話“I like reading books.”から始めて、担任の先生には不完全ながら英語で伝えようとしている。
T:あぁ、3冊家に持って帰れるんだね。3冊借りられるんだ。
S:そう、でも、でも。
T:でも借りたくないの?
S:ちがう、もっと。
T:もっとたくさんの本?
S:そう。
もちろんSくんは日本語で話せば、きちんと理路整然と発言することができる。
このたどたどしさは、ひとえに不慣れな英語のせいだ。
T:あぁ、もっとたくさん借りたいんだけど、ライブラリーのルールで3冊しか借りられないんだね。それがライブラリーのルールなんだ。
S:そうそう。それがライブラリーのルール
T:何冊ぐらい読めるの?
S:10冊、20冊。
最後には、他の子もどんどん手を挙げて、50冊、100冊…とエスカレートしていく。
そしてクラス全体が笑いで包まれる。
このやり取りで驚いたのは
*まず、Sくんはとにかく発表したい事があって、英語で何て言うかなど全く心配したりせず手を挙げて話し始めたこと。
*途中で詰まったり、言いたい事が先生に通じないことが何度もあったけれど、決してあきらめずに自分の考えを伝えようとしていること。
*この間、5分以上かかっているのに先生も粘り強く見守りながら話を引き出していること。
*クラスの他の子も、この対話に耳を傾けていてくれたこと。
自分だったら「もういいです」と話を打ち切るか、相手に合わせてお茶を濁すだろうと思い、こんな風に毎日を過ごしているSくんが輝いて見えた。
このような子どもたちの体当たりコミュニケーションはいろんな場面で見られる。さっきも廊下で先生に泣きながら、“言い訳?”か“言い分?”を訴えている子がいた。まだまだ完全ではない会話力に、もどかしさを感じながらも果敢に立ち向かう姿勢に感動の毎日だ。
【副学園長・山口千恵子】